動物病院の開業を考えている方は、とりあえず個人で始めた方がいいのか、前向きに最初から法人化を検討したら良いのか悩む方も多いでしょう。
そこで本記事では、動物病院のそれぞれの開業パターンや、法人化することによるメリットやデメリット、そして法人化するタイミングについて紹介します。
本記事にて、動物病院の開業についての内容を確認し、どちらで開業したら良いかの判断の参考になれば幸いです。
動物病院の開業には、「個人事業主」と「法人」の2パターンがあります。どちらにしても、業務内容や提供するサービスに違いはありません。
まずは、個人事業主と法人のそれぞれの特徴について確認していきましょう。
個人事業主として開業するのに適しているのは以下の通りです。
個人事業主として開業する場合、届出の費用は必要ありませんし、社会保険に加入する義務がないためコストを節約することも可能です。
また、税務処理などの手続きも法人よりも手間がかからないため、負担が軽減できるのもメリットといえます。アットホームで小さい動物病院を経営するなら、個人事業主での開業をおすすめします。
法人として開業するのに適しているのは以下の通りです。
銀行や国などから融資を受けたい場合は、法人にすることで社会的な信用度が上がるため、審査に有利です。
また、個人事業主と比べると法人は最高税率が低く、計上できる経費も多いので、節税したい場合はメリットとなります。
開業時、個人事業主で2年開業してから3年目に法人化するケースが多く見られます。
1つめの理由として、消費税の免税期間を最大限利用したい場合です。個人事業主では開業後、売上が1,000万円を超えた場合、それから2年間消費税が免税されます。その後、法人化した場合、2年間の消費税が免税となるため、約4年間の消費税の納税を免れるのです。
2つめの理由として、動物病院の経営の見通しを計りたい場合です。
医院を開業する際、時間と労力をかけたマーケティングにも力を入れることになりますが、具体的な売上や患者数の増加、そして支出などは実際に経営を始めてみなければわかりません。
そのため、最初から法人として医院を運営する場合、想定した成果を上げられない場合に法人設立のメリットが活かせない(個人事業として運営した方が税金など少なくて済む)可能性も考えられます。
このようなリスクを回避するため、動物病院の運営を開始してから、実際の業績や資金の流れを1~2年間見極めた上で、法人設立の判断をするほうが賢明なケースもあるのです。
動物病院を法人化するメリットは以下の3つです。
まずは、それぞれのメリットについて確認していきましょう。
個人事業主では収入のすべてが所得となるため、売り上げが大きくなるほど比例して、所得税の割合も大きくなります。
個人事業主の所得税の税率と比べて、法人の税率の方が低いことが所得税を大幅に下げられる要因のひとつです。また、個人事業主では代表者へ給与の支給はできませんが、法人では可能となり給与所得控除を受けられます。
なお、生計を一緒にしている親族に対する給与は、個人事業主の青色申告を提出する事業者でなければ必要経費として算入できません。しかし法人化している場合、家族であっても無条件に給与として計上が可能です。
自己資金があった場合でも、借入や融資を利用する方は多いです。しかし、法人化しておくとスムーズに融資を受けられるケースが多く、個人事業主だと融資の面で不利になるケースも少なくありません。
例えば、日本政策金融公庫が運営している新創業融資制度は、設立したばかりの企業もしくは事業開始から2年経過していない企業に向けた融資制度です。
最大限度額は3,000万円で、運転資金として融資を利用する場合は1,500万円が限度額となります。
ただし融資を申し込んだ金額につき、10%の自己資金が必要です。他の助成金や補助金も、個人事業主より法人化した方が申込しやすい場合が多いでしょう。
個人事業主では認められない経費が、法人化することで経費として認められるため節税対策に効果的です。
前述しましたが、経営者の給与を役員報酬として経費に計上できます。他にも賃貸の自宅を社宅扱いにして家賃や光熱費の一部を経費にしたり、出張の際にかかる交通費や宿泊費、そして出張手当として経費にしたりすることも可能です。
また、交際費は年間800万円まで経費として認められるようになりました。このように、個人事業主では経費として計上しづらいことも、企業化することで経費にできる幅が広がるため、節税効果が期待できるでしょう。
一方で、動物病院を法人化するには、以下のような3つのデメリットについて留意する必要があります。
続いて、それぞれのデメリットについて確認していきましょう。
個人事業主の税務処理では確定申告すれば問題ありませんでしたが、法人の場合、手続きが複雑で書類も膨大です。
法人の税務処理を自身で進めるのは費用対効果が悪くなるため、本業が疎かになってしまう可能性があります。したがって、法人がした会社のほとんどが顧問税理士に税務処理を依頼することが多いため、顧問税理士の顧問料が必要となるでしょう。
個人事業主では、国民健康保険や国民年金を支払いますが、法人化することで、社会保険は必ず加入する必要があります。
社会保険は、労使折半と言い、従業員と会社が半分ずつ支払います。そのため従業員が多ければ多いほど、社会保険の負担が大きくなります。
なお、社会保険の支払額は役員報酬の約2割となるため、当然ながら手取りも減ります。
毎期ごとに役員報酬を設定するのですが、設定すると1年間変更ができません。
また、役員報酬の金額設定を間違えてしまうと、以下のように税金が高くなる可能性があるため注意が必要です。
以上のように、役員報酬の設定は、事業計画と一緒に慎重に設定する必要があります。
なお、役員報酬をいくらにするかの判断が難しい場合は、顧問税理士とともに設定すると良いでしょう。
動物病院を法人化するタイミングは、以下の2つのポイントを参考にしてください。
それでは、それぞれの法人化するタイミングについて確認していきましょう。
法人化するタイミングとして、所得が800万円を超えたあたりで法人化すると良いとされています。
個人事業主の税率は、所得が800万円で23%ですが、900万円以上となると33%となっています。
一方で法人化した場合の税率では、所得が800万円では15%となり、それ以上になると23.2%となるため、個人事業主と比べると税率が低くなりお得となるためです。
個人事業主や法人どちらにしても売上が1,000万円を超えると、その2年後から消費税を納税しないといけません。
しかし、タイミング良く個人事業主から法人化することで、最低でも4年間の消費税の納税が免除されます。なお、免税を目的に法人化する必要はありませんが、念のため理解しておくと良いでしょう。
今回は、動物病院のそれぞれの開業パターンや、法人化することによるメリットやデメリット、そして法人化するタイミングについて紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。
動物病院の開業にあたり、個人事業主と法人にはそれぞれの特徴があり、状況によってどちらが自分に適しているかを判断する必要があります。
本記事で紹介したメリットとデメリットを天秤にかけ、メリットが大きい方を選び事業を成長させていきましょう。